「いや、結局あれなんですよ、秋山さん・・・中学受験って、私の塾に入る段階からもう決まっているんですよ。
入った段階で優秀な子は、そのまま優秀です。微妙な子は微妙です。だから、実は塾もいかに優秀な子どもを入れるかが勝負なんですよね。
もちろん、入る段階からと言っても、伸びる子もいます。ただ、スタートラインが違うので、優秀な子と微妙な子が同じ時間勉強するので、どうしても結果は変わらないのですよね。」
学習塾の不都合な真実
これは中学受験の塾を経営している方の言葉です。いや~、これは衝撃的でしたね。年齢に関係なく塾って、みんなの成績を上げるものかと思っていたら、これが塾の不都合な真実のようですね。でも言われてみれば、そうですよね。単に、私が幻想を抱いていただけで、冷静に考えればよく理解できます。
ただ、ここで注意しなければならないのが、彼は「努力がムダとは決して言っていない」ということです。あえて才能という言葉を使えば、才能がありながら努力しない人は、才能がなくても努力している人に抜かれてしまうとも言っています。
つまり、彼の塾では、全員が努力し、勉強時間を時間管理しているので、全員が同じ時間勉強すれば、最後は才能のスタートラインがどこかで決まってしまうということです。そう考えると、ホントそうだと思いますよね。
私の情けない過去の話…(T T)
私の情けない過去の話を言えば、私が今も続けているバスケがそうですよね。私は中学生のとき弱小チームで、補欠という最弱王ともいえる存在でした。そんな私でしたが、バスケが好きだったので、高校も続けました。ただ、高校は一応進学校でバスケが強いチームではなかったので、高校に行けば、試合に出られるかな~なんて思っていたのです。
しかし…現実は違いました(汗)高校に入学すると「あれ?この人どこかで見たことある!」「あれ?この人も…」「ん?あれ、あの人か?」という具合に、なぜか私の学年は宇都宮市選抜メンバーがそろっていました。スポーツ推薦はなく、普通に受験しないと入れないので、単なる偶然でした。
ま~、そんな感じでしたので、それなりに強豪チームになり、練習もめちゃめちゃ厳しかったことを記憶しています。とはいえ、専門の監督がいなかったので、自分たちでメニューを考えたり、最新のトレーニングを調べたり、その頃はNBAが放送されていたので、それを見て研究したりしていました。そして、そんな中、このような出来事がありました。
ってか、俺の練習付き合って。
「秋山、お前何本打ってから帰ってる?ってか、俺の練習付き合って。」
と、同級生に言われました。彼は、元宇都宮市選抜のメンバーです。なぜか、彼は私を気にっていて、私に練習を付き合ってくれと言ってきました。ただ、付き合うと言っても、彼のシュート練習のリバウンドを取って、パスする役割です。彼の一言がきっかけで、私は彼の練習に付き合いました。
そして、重要なのがこちらです。「秋山、お前何本打ってから帰ってる?」です。正直私は、全く答えられませんでした。だって、シュート練習してないに等しかったですから。そのとき彼にこう言われました。
「最低300は打たないとな~」
と。お~、300か~と思いつつ、私は愕然としました。そして、気が付きました。彼は選抜メンバーになるくらいです。だから、聞きました。
「ね~、もしかして中学のときからシュート練習やってから帰ってるの?」
「あ~、やってるね~。で、そんときの相方いないから、秋山頼むよー」
その日から練習開始
と。もう私は反省ですよね。というより、もう過去の時間は取り返せないので、今から動くしかありません。ですので、私はその日から3ポイントシュートの練習を繰り返しました。ただ、300本という本数にはこだわらず、彼と相談して全方向から決めてから帰るということを開始しました。
ちなみに、全方向というのは、3ポイントラインに沿って、バッシュ1足分ずつ移動して1本ずつ決めていく感じです。だから、300本かどうかは分からないですが、結構な本数は打っていました。そんな感じで彼と部活引退までずっと続けていた記憶があります。
で、そんな感じでしたので、彼が試合中シュートが入らないと、試合中に「角度違う?」と聞かれ、「低いから、もう少し高く!」という感じで話していました。彼のシュートを私も何本見たか分からないので、シュートの角度を見て修正ポイントが分かるようになっていました。
この差は永遠に埋まることがない…
さてさて、バスケ話をすると止まらなくなるので、ここで止めますが(笑)…実は、この話全くもって、塾の話と同じです。彼は中学生のときから毎日300本近くシュートを打っていました。一方私は…中学生のときシュートを打っていませんでした。
その二人が高校に行きました。さて、彼と私のスタートラインはどうでしょうか?これは愚問ですよね。ですよね、もう圧倒的に差がついてしまっています。しかも、彼は高校に入っても、努力を継続しています。一方私は、高校から彼に言われるままに練習をはじめました。
ということは…この差は永遠に埋まることがないでしょう。まさに、これが塾の経営者の言葉なのでしょう。だから結局私は、彼以上の努力をしない限り、彼を超えることはありません。でも、彼は努力を重ねています。これでは、とうてい彼に勝てるわけはありません。
まさに、これがタブー
ただし、注意していただきたいのは、決して私は努力を否定しているわけではありません。私のような人間は、努力し続けなければ、何も残らなくなってしまいますから。ただ、自分より早く努力している人には、出会ったときからスタートラインが違うということに、高校を卒業して20年経った今、こうやって気が付かされました。
つまり、こういうことでしょう。この「人材育成の世界でのタブー」は、まさにこの話なのではないでしょうか?
「結局、幼児教育から始めないと会社員になってから良い人材に育成しようとしても限界がある」
会社員になったとき、「新社会人」というカテゴリーでは同じスタートラインですが、すでにそれまで様々な人生を各々が歩んでいるのですから、その時点からもうスタートラインが違ってしまっているということです。だから、入社時に優秀な人は、そのまま優秀で、当落選ギリギリラインだった人は、やはりそのままの可能性が高いということなのでしょう。
6割は2割に成長できるのか?
人事の世界では「2:6:2」とよく言われますが、トップ2割は放ったらかしで育つので、真ん中の6割を2割に近づけたいという要望が多くあります。でも、これまでの話を踏まえると、おそらくトップの2割と真ん中の6割には、すでにスタートの時点から差があるのでしょう。
そして、これはあくまでもイメージですが、トップの2割の人は努力し続けているでしょう。反対に真ん中の6割の人は、マチマチでしょう。そう考えると、スタートラインが、そもそも違うのですから、6割の人が2割に行くのは困難な話です。
ただ、そうは言っても人材への投資は不可欠です。だからこそ、人事の人たちは、2割に行けないのはわかっているが、6割の人をできる限りレベルアップしたいというのが本心なのではないでしょうか。しかしながら、ここはすぐに結果が出る層ではありません。そういった意味では、人事側も「根気がいる」という前提で注力しなければならないのでしょう。
事実を受け入れた投資判断
ちなみに、一つ補足しておくと、だからと言って私はその6割に投資してもムダだとは考えていません。不都合な真実を受け入れて、どのように企業の限りある資源を配分するかを考えなければならないと考えています。早く伸びる人に多く投資するのか、それとも時間はかかるけど人数が多い人に投資するのかは、各企業の判断だと思っています。実際、私も経営者として、それを考えながら人事戦略を立てています。
しかも、これは一見ドライに見えますが、その人その人の人生を考えたら重要なことです。海の魚や川魚の話を以前しましたが、その人が望まない投資をしても、その人にとって負担になり、かえって人材をマイナスに導いてしまいます。そういったことがないように、この不都合な事実を受け入れながら、投資判断をしなければならないのでしょう。
話は急転しますが…
このように、人材育成の世界では「入社してからでは遅い…だから、幼児からはじめなければ」と思いつつも、現実を否定してしまうことになるので、これがタブーとされる現実があります。だから、結果として、人材育成関連の企業を創業した方は、ある程度軌道に乗ると、後継者に継承し、自身はNPOなどを立ち上げて、表舞台から身を引いたように幼児教育に移行する人が多いのかもしれません。
ただ、話は急転しますが、私もここに、これまで全く知らなかった落とし穴が存在するとは思いませんでした。おそらく、幼児教育と言うと、幼稚園生か小学校低学年を想像する人が多いでしょう。でも、それでは遅かったのです。実は、この幼児教育は誰もが想像しない時期から始めなけれならないということが、アメリカで40年を費やした研究結果から、ある事実が見えてきました。今度は、その事実についてお伝えしましょう。
ー秋山大介